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民法総則 抗弁権の永久性、権利失効の原則
伊藤真試験対策講座1 民法総則

・抗弁権の永久性
抗弁権の永久性という概念がある。
これは、取消権などの権利は、5年の消滅時効にかかるものであるが、取消権が防御的に抗弁として機能する場合には、時効にかからせるべきではないという考え方である。

たとえば、
甲が原野商法により、乙に対して、価値のない土地を高額で売りつけた。しかし、その後、甲は警察ににらまれて、派手な動きをすることができなくなった。
乙も、だまされたと気づいたが、甲が支払いの請求をしてこないので、「支払いの請求が来たら、取消権を行使しよう」と思いつつも、そのままにしておいた。
やがて、5年が過ぎて、ほとぼりが冷めたころに、甲が乙に対して、代金の支払いを請求してきた。
形式的に見れば、乙の取消権は、消滅時効にかかっているが、このような場合、取消権を行使できないのであろうか。

このような事案で、乙が取消権を行使できないとするのは、乙にとって酷である。乙は、「支払いの請求が来たら、取消権を行使しよう」と思いつつ、いわば、警戒線を張り続けていたに等しいわけであるから、抗弁権の永久性により、依然として、取消権を行使できるようにするべきであるというのが通説となっている。

なお、学説の中には、取消権は能動的な行為が可能である。たとえば、上記事例では、甲の支払請求を待っていないで、だまされたと気づいた時点で、取消権を行使するのが通常であるから、抗弁権の永久性という概念を持ち出す必要はないとする考え方もある。


・権利失効の原則
まったく反対の概念が、権利失効の原則と言うものである。
これは、権利者が長らく権利の行使を怠っている場合は、相手方も、「もはや、権利の行使はない。」という期待を生じるので、このような期待を裏切って、突然権利を行使するのは、信義則に反するので、許されないという考え方である。ドイツで主張されている概念であるが、日本では、少数派である。


以上、今日は、「民法総則 抗弁権の永久性、権利失効の原則」についてでした。
民法総則 除斥期間
伊藤真試験対策講座1 民法総則

消滅時効と似た制度として、民法には規定がないものの、除斥期間という概念が考えられている。

除斥期間とは、法律関係の速やかな確定を目的に設定された純然たる権利行使期間であって、一定の期間内に権利を行使しなければ、権利が消滅するというものである。
1、時効とは違い、中断することはないし、
2、援用も不要とされている。
3、ただ、停止は認めなければ、権利者に酷であるから、認められているとされている。
4、時効の起算点については、消滅時効は、権利を行使しうるときから起算されるが、除斥期間は、権利の発生のときから起算される。
5、また、時効の場合は、遡及効があるが、除斥期間の場合は、将来に向かってのみ効力を生じ、遡及することはないとされている。

除斥期間の例としては、不法行為責任の消滅時効に関する724条の20年間の期間が挙げられる。

※参考条文
(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
第七百二十四条  不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。

たとえば、以下のような判例がある。
不爆弾処理に携わっていた原告が警察官の不適切な指示によって、爆発にあい、重大な後遺障害を負った。
その後、役所に補償を求めたが、あちこちにたらいまわしにされた挙句、20年経過した後にようやく、国家賠償請求訴訟に踏み切った。

しかし、裁判所は、除斥期間は、当事者の主張を要しないものであるから、除斥期間によって、権利が消滅しているとして、原告の訴えを退けている。
ただし、これに対しては、国が除斥期間を持ち出すのは、信義則違反であるとか権利濫用であるという根強い批判もある。

以上、今日は、「民法総則 除斥期間」についてでした。
民法総則 時効の利益の放棄
伊藤真試験対策講座1 民法総則

時効の利益の放棄とは、時効の完成後に、その利益を放棄することを言う。
民法では、時効の完成前には、時効の利益を放棄することができないと定めており(民法146条)、その反対解釈として、時効完成後は、時効の利益を放棄できるとされている。

時効完成前に、時効の利益を放棄することができない理由としては、高利貸などの債権者によって、悪用されることを防止するためといわれている。
たとえば、時効を援用しないとしたり、時効にかからない契約とするというような特約は禁止されている。また、時効の完成を困難にするような特約、たとえば、時効期間の延長、時効の中断事由、停止事由の拡張なども、禁止されている。

時効完成後に時効の利益を放棄する場合は、道徳的な良心に基づいて、時効の利益の放棄をせず、弁済する場合もあるが、時効の完成を知らずに、債務の弁済の意思を表示してしまうこともある。

このように、時効の完成を知らない場合でも、時効の利益を放棄したことになるのであろうか。
かつては、時効完成後は、「債務者は、時効の完成を知っていると推定される」から、時効完成後、弁済の意思を示した場合は、時効の利益を放棄していると言えるしていた。

判例は、「時効完成後に、債務を承認する場合は、時効完成を知っているほうが異例で、知らないのが通常であるから、債務の承認は、時効が完成したことを知ってなされたものであると推定することは、許されないとしている。」
その上で、「時効完成後に債務を承認する行為があった場合は、相手方も、債務者は、時効を援用しないという期待を抱くから、信義則上、その債務について、時効を援用することは許されない」としている。

要するに、時効完成後に、債務の承認があれば、もはや、時効を援用することができないということに変わりはないということであろう。

では、時効の利益の放棄の効果は、どこまで及ぶのか。
これについては、時効の援用と同様に相対効であるとされている。
たとえば、主たる債務者が時効の利益を放棄したとしても、その保証人は、依然として、主たる債務の消滅時効の主張をすることができるということである。

以上、今日は、「民法総則 時効の利益の放棄」についてでした。
民法総則 時効の援用権者
伊藤真試験対策講座1 民法総則

時効は、当事者が援用しなければ、効力を生じない。当事者とは、貸金債権の場合は、債権者、債務者のことをさす。最も、債権者が時効を援用する例は少ないであろうから、債務者が援用することになる。

※参考条文
(時効の援用)
第百四十五条  時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。

では、時効の援用は債務者以外のものがすることはできないのであろうか。
たとえば、債務者に保証人がついている場合、保証人が援用することはできないのであろうか。

 債権者
↑債務 ↑保証債務
債務者 保証人

まず、保証債務というのは、主たる債務を保証するものであるから、主たる債務が消滅すれば、保証人の債務も消滅する。そのため、保証人が、債務者の消滅時効を援用する実益はある。
もちろん、保証債務自体も消滅時効にかかるため、主たる債務よりも先に、消滅時効が成立すれば、保証債務の時効を援用することは可能である。

保証人が主たる債務の消滅時効を援用することができるのであろうか。
判例は、「時効によって直接に利益を受ける者」については、時効が援用できるとし、保証人についても、時効によって直接に利益を受けるから、主たる債務の時効を援用することができるとしている。
保証の種類としては、単なる保証人だけでなく、自らの不動産等を担保として差し出す物上保証という形態もある。判例は、物上保証人についても、主たる債務の時効を援用することができるとしている。
また、保証人だけでなく、抵当権等の担保のついた不動産を買い受けた第三取得者についても、時効によって、直接に利益を受けるものであるから、主たる債務の時効を援用することができるとしている。

このように判例は、時効の援用権者は拡大する傾向にあり、学説の多くもその立場を支持している。ただし、学説の中には、時効制度の不道徳性を理由にして、時効の援用権者を拡大して解釈することに批判的な学説もある。

以上、今日は、「民法総則 時効の援用権者」についてでした。
民法総則 時効の効果
伊藤真試験対策講座1 民法総則

時効が成立すると、時効の効果は起算日に遡る。債権の消滅時効の場合は、起算日の時点から、債権がなかったものとして扱われるし、取得時効の場合は、起算日の時点から、自分のものであったとされる。
ただし、刑事事件の時効と違い、時効によって、必然的に時効が成立するわけではなく、当事者が時効を援用しない限り、時効は完成しない。また、時効が完成した後に、時効を援用せずに、債務を弁済することも可能である。
このため、時効制度については、「良心的規定」と説明されることがある。

しかし、時効の規定の中で、民法162条や167条には、権利を取得し、消滅が生じるという言い方をしている。
実体法上は、消滅しているかのように受け取れるにもかかわらず、訴訟では、援用がなされない限り消滅したものとして扱われないという矛盾が生じる。
この矛盾をどう説明するべきかを起点にして時効の法的構成について議論がなされている。

一つの考え方は、時効の完成によって、権利の得失は生じるものの、訴訟上取り上げてもらうためには、攻撃防御方法として主張する必要があり、145条はその旨を定めたものであるとする説。(攻撃防御方法説、実体法の立場)
似た考え方として、時効制度は、権利の得失制度ではなくて、真の権利者の立証の困難を解消する制度であるから、時効の完成は、法定証拠となるとする説もある。(法定証拠提出説、訴訟法説の立場)
以上の説については、訴訟においては、当事者が主張したことのみを取り上げるという弁論主義が採用されている民事訴訟法上は当たり前のことを規定しているに過ぎない。しかも、なぜ、時効の制度についてだけ、このような規定をおいているのか不明確であるという批判がなされる。

もう一つの説として、時効の効果は、時効期間の経過によって、直ちに確定的に生じるわけではなく、援用を停止条件として、あるいは、援用しないことを解除条件として、確定的に効果が生じるものであるとする説がある。(不確定効果説)
この説は、訴訟法上の証拠提出だけでなく、時効の良心的規定としての意味にも通じる一貫した解釈になっている。
現在の通説は、不確定条件説の立場であり、判例も、同様の立場に立っているとされている。

※参考条文
民法
(時効の効力)
第百四十四条  時効の効力は、その起算日にさかのぼる。
(時効の援用)
第百四十五条  時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
(時効の利益の放棄)
第百四十六条  時効の利益は、あらかじめ放棄することができない。


(所有権の取得時効)
第百六十二条  二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2  十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
(債権等の消滅時効)
第百六十七条  債権は、十年間行使しないときは、消滅する。
2  債権又は所有権以外の財産権は、二十年間行使しないときは、消滅する。


以上、今日は、「民法総則 時効の中断事由 請求」についてでした。